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『江副浩正』
今回、オススメするのは『江副浩正』の本。書店では平積みされているのをよく目にするし、Amazonのランキングでも最近は常に上位。本当に人気がある本だと思う。
(レビューなどはやはりリクルート出身者が多いのだけど……)
江副浩正とはあのリクルートの創業者。5年ほど前の2013年2月8日に既に亡くなられた方で。
記憶している方の多くはその活躍というより、リクルート事件のことだろう。
ただ、僕にとってはかなり違う。
社員として働いたことはないのだけど。リクルートでは学生時代にバイトをしていて、そのエネルギーは多くの企業が持ち得ないものだと今でも思う。
現在も、リクルート出身者の方と仕事をする機会も多いし、江副さんの名前もよく聞くので、これは読まないといけないだろう、と読ませていただいた。
起業されている方はぜひ読んだ方がいい必読書だと思う。
内容はまさに天才起業家である、江副浩正が描かれている。
その才能の凄まじさは読んでいてもワクワクしてくると思うのだけど。その一方で厳しい現実、悪い状況も描かれている。
印象に残るポイント(エピソード)
起業家なら誰もが知っている名言中の名言
これはまさに本書の表紙にもある名言
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
「リクル ート社員みんなが己の高みをめざして、もっと変わるのだ。
そのための模範を自ら身をもって示そう。江副は『現代の経営』のページの余白に書いては消し 、消しては書いて言葉を並べる。そしてやがて一行の言葉が江副のなかから誕生した。
『自ら機会を創り出し 、機会によって自らを変えよ』なかなか刺激的な言葉に自ら満足し、なんども口に出す。その言葉を印字した青いプレ ートを作らせると、自分の机は言うに及ばず、社員全員の机に自ら一つ一つ置いて回る」
自分の意見をもって顧客の意見を聞く
顧客主義の徹底をする。
ただ、それは自分の意見をもって聞くことが重要だと語っている。
「大切なことは、自分の意見を持ってお客様の意見を聞く姿勢。自分の意見を持ってお客様に聞かなければ、お客様の本当の声を聞き取ることができない。こちらの考えとお客様との意見の間に本当の答えがある」
広告だけの本を創る
今でこそ、驚きはしないかもしれないけど、当時は凄まじいアイデアだったと思う。
「ここずっと考えてきたことを江副は初めて口に出して言った。
『広告だけの本』
ぼんやり考えてきたことが、言葉にしたことで実像となった。
とたんに反対の声が次々に上がった。
『広告だけの本をだれが買う?』
『いや、売らないんだ。無料で配る』
『なにそれ』
『無茶だよ、そんなの』
反対が多いということは、それだけ関心があるということだ。
『得意先からの広告費で、すべてをまかなう』
『できるわけないよ』
『できるさ。出版経費、配送費をすべて足してわれわれの利益を乗せて、それを広告掲載社数で割れば、一社当たりの広告費がでてくる』
『いいね、広告だけの本なんて、どこを探してもないものな』」
日本で一番進んだ情報産業に
時代を読み、ゴールを想定する。
「手描きで制作している『リクルートブック』の地図も、いつかコンピュータ処理ができる時代が来る。そうすれば、一度作った情報は効率よく再利用でき、制作原価が一段と下がる。いま携わる、自分たちのすべての情報をコンピュータのもとに集約できれば、日本で一番進んだ情報産業になれる。そう信じていたのだ」
「IBMのセールスエンジニアが言う。
『最新の事務処理能力をもつのはIBM1130となります』
『わかりました。十台入れましょう』
リクルート創業七年目。売上高四億二千万円。利益二千四百万円、社員数八十人の会社が、まだ日本にコンピュータが全部で三百台しかないという時代にその利益をすべて吐き出しても、最新機器を十台も導入するという」
「導入を決めたはいいが、社内にコンピュータの専門家は一人もいない。江副自身が東大の芝の研究室に出向き、情報理論の講義を直接受けた。その難解さをかみしめながらも江副は、コンピュータの本質を直感でつかみ取っていた。わが社はどんな産業に属するか? という問いには『情報産業である』と答えることができます。また電子計算機をいいかえて、情報処理機器とよぶこともできるでしょう。これからのわが社にとって、電子計算機はなくてはならないものになるはずです」
日本の社会構造を変える要因に
「『とらばーゆ』は女性の熱い支持を受け、発売翌日にほぼ完売。
新聞は一面で『女性の転職時代の到来』と大々的に報じた。結婚すれば寿退社して女性は家に籠もるものという社会通念は、この年を境に、日本から徐々に崩れていく。『とらばーゆ』の創刊は、戦前戦後に築かれてきた日本の社会構造を変える、一つの要因となったのである。 「住宅情報」に次ぐ『とらばーゆ』の成功で、江副はますます時代を演出し、時代と並走する経営者として注目を集めるようになった」
書籍内容
自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ
なぜ彼にだけ見えたのか。
なぜ彼にだけできたのか。
そして、なぜ彼は裁かれたのか。
稀代の起業家「江副浩正の仕事と生涯」正伝
江副浩正の名は、一般にはリクルート事件と併せて語られることが多い。それだけ人々の記憶に深く、あの事件のことが刻まれているということだろう。だが、この鮮烈な記憶が、起業家としての江副浩正の実像を覆い隠し続けてきた。いまだに強烈な逆光によって江副浩正の正体は眩まされ、かつてはメディアが「東大が生んだ戦後最大の起業家」「民間のあばれ馬」と書き立て、いまだに孫正義など多くの実業家から先覚者として称えられる江副の、本当の凄みを理解する者は数少ない。
1989年、リクルート事件で江副は会長職を退任する。その3年後にはリクルート株を売却、完全にリクルートを離れた。それ以来、裁判報道を例外として、江副の名前はマスコミから消えた。2013年2月8日享年76で亡くなるその日まで、江副が何を考えどう生きたのか、それを知る人はほとんどいない。実は、彼はその死の日まで、事業での再びの成功を願いもがいていた。新たな目標を定め、組織をつくり、果敢に挑んでいたのである。起業家の血はたぎり続けていたのだ。
その、江副浩正の実像を明らかにすることが本書の目的である。彼だけが見ていた世界、目指したもの、そこに挑む彼の思考と行動。その中に、私たちを鼓舞し、思考と行動に駆り立てる何かが準備されていると信じるからである。
著者説明
馬場マコト(ばば まこと)
1947年石川県金沢市生まれ。1970年早稲田大学教育学部卒業。日本リクルートセンター、マッキャン・エリクソン、東急エージェンシー制作局長を経て、1999年より広告企画会社を主宰。JAAA第4回クリエイティブ・オブ・ザ・イヤー特別賞のほか、日本新聞協会賞、ACC話題賞、ロンドン国際広告賞ほか、国内外広告賞を多数受賞。第6回潮ノンフィクション賞優秀作、第50回小説現代新人賞、受賞。著書は、『戦争と広告』(白水社)、『花森安治の青春』(潮文庫)、『朱の記憶 亀倉雄策伝』(日経BP社)ほか多数。
土屋 洋(つちや ひろし)
1946年大阪府豊中市生まれ。大阪大学文学部卒。1970年日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社後、採用広告事業、デジタル通信事業、教育研修事業に従事後リクルートスタッフィング監査役、2007年リクルート定年退職。株式会社メンバーズ入社後監査役(2007~2017)。著書は、『採用の実務』(日本経済新聞社)、『新卒採用の実際』(日本経済新聞社)、『人材採用成功実例集』(アーバンプロデュース)、『eラーニング導入ガイド』(共著、東京電機大学出版局)。