神は細部に宿るのか
「神は細部に宿る」という言葉がある。
ル・コルビュジェ、フランク・ロイド・ライトと並ぶ近代建築の三大巨匠の1人、ミース・ファン・デル・ローエの言葉。
言葉の意味はそのままで。細かい部分にこそ、神が宿る。言い換えれば、細かい部分まで徹底してこだわれるかが成功するかしないかを決めるという意味だ。
細かい部分を疎かにすると、人を魅了するものは作れない、という意味でもある。
スティーブ・ジョブズの細部へのこだわり
ビジネスでこれを実践し大きな成果を残したのはまさにスティーブ・ジョブズで。
彼はあらゆる製品や店舗はもちろん、企業のロゴ、名刺などのグラフィックに至るまでそのすべてがブランドを表現するもので、細部も疎かにすべきではないという姿勢だった。細部の鬼だったといえる。
日本でも似たようなことを語る人は数多くいて、サイバーエージェントの藤田社長も「自社メディア」について、次のように語っている。
「自社メディアは『神は細部に宿る』どころか、細部こそが決定打になるのです」
でも、実は細部にこだわると問題がある。だから「(細部などこだわらず)まず、やってみることだ」という人もいる。
一体、細部にこだわるべきか、こだわらないべきか。そして、問題とは何なのか。今回はそれについて話していきたい。
細部にこだわることは問題か
まず、結論からいう。
細部にはこだわった方がいい。
ただ、細部にこだわることにはとても大きな問題点がある。
細部にこだわると「遅くなる」のだ。
僕の経験でいうと、最も長い時間を費やした広告は約10年の歳月をかけていて。
コピー、デザイン、色など、その1つひとつを日々改善していった。結果、他社と比較すると圧倒的な成果を出し続けられるようになっていた。
なので、細部にこだわることで成果が出ることはそのとおりで何一つ異論はないのだけど。
ただ、時間はかかる。細部にこだわることで10年というのはとんでもないケースだけど、かなりの時間を費やすことになる。
起業家がスタート段階でそんなにこだわれるかというと、時間も労力も資金もない。体制だってそんな状況ではない。
たとえば、あなたが新たな事業をスタートしようとする時に、「神は細部に宿る」などと言って、そこに注力してしまったら、事業は何一つ進まなくなってしまう。
では、どうやって細部にこだわればいいのか
スタートから細部にこだわると悲惨な状況に陥ってしまう。
大手企業とベンチャー企業を見てきて、強く感じるのだけど、大手の状況と比べると、ベンチャーというのは様々なことが揃っていない。マニュアルから何から全てが揃っている大手とは違う。その状況で細部全てにこだわってしまったら、うまくいかないのは当然だろう。
じゃあ、どうすればいいのか。
大切なことは2つの段階を意識することだ。
核といえる根本的な部分を創り上げる段階と、細部にこだわる段階と、だ。
根本を創り上げる段階
まずは根本的な部分を創り上げることだ。
特にビジネスがスタートする前の段階は核となる根本的な部分を創り上げることに力を入れていくことだ。
この段階では細かいことは気にしない。
ここであまりにも細かいことにこだわると、先ほどの問題もあるし、社員同士の意見の不一致だって生まれてしまい、会議が全く進まず、計画はまず遅れる。
まだスタートもしていない、よくわからない状況で議論だけが細部に向かってしまう。細部は後だ。
余談だけど、37シグナルズの創業者ジェイソン・フリードが細部にこだわらないようにするため、次のようなことを語っている。
「僕たちが何かをデザインするとき、普通のボールペンを使わずに『シャービー』という大きな太線のマーカーを使ってアイディアを描く。なぜか? 普通のペンでは、あまりに細すぎて、はっきりと映りすぎるのだ。影を完璧にしないといけない、点線を使うか破線を使うかなど、まだ気にしなくもいいようなことにも気がいってしまう」
つまり、ペン1つとっても、細かい部分にこだわらないように工夫しているということだ。
細部にこだわる段階
次に細部にこだわる段階だ。
特にビジネスがスタートした後がオススメだ。
核となる根本の要素は決まり、実際にビジネスがスタートし、顧客の反応などがわかる段階。
その状況でこそ、細部で何をすべきかが明確になってくる。
顧客の反応があるため、頭で考えた机上の空論でもない。ここで細部にこだわるからこそ、意味のある細部になる。
最初から物事の細かい部分に目が行きがちな人はこの2つの段階を意識するだけで、最初の段階でのスピードを保ちつつ、細部にこだわることが可能になる。
あなたへの質問
あなたが効率よく細部にこだわるため、次の質問に答えてほしい。
- あなたはビジネスを開始する前に細部にこだわりすぎていないだろうか?
- 起業家としてのスピードを活かしつつ、細部にこだわるためにはどのようにすればいいだろうか?