『実践行動経済学』
2017年にノーベル経済学賞を受賞したセイラー教授。
その代表作が『実践行動経済学』。
タイトルが『実践行動経済学』なので、きっとビジネスにも使えるはず、と読む人も多い。
ただ、実践行動経済学というタイトルだけど、多くの人がイメージするそれは第1部にあるもので。中盤以降、第2、第3、第4部あたりはおそらくイメージと違うはず。
そもそも、行動経済学をベースに、公共政策をいかに「ヒューマン」としての一般市民に普及させていくというのが主なテーマ。
だから、行動経済学の本だと思って読んでいても、途中から米国の事例ばかりでまいったとなってしまう可能性もある。
実際、レビューを見ると、「第1部がいい」という意見が圧倒的に多い。なので、いっそ、その第1部を目当てに読むつもりで、読んでみる本だと思う。
内容について
原題は『Nudge』。意味は、
「注意や合図のために人の横っ腹を特にひじでやさしく押したり、軽く突いたりすること」
この本は「ほんのささいな行動の変化で相手の行動が変わる」ことを知ることが大事だと伝えている。それでは、特に印象に残った3つのポイントを話していきたい。
『実践行動経済学』の3つのポイント
ビジネスに活用するため、読みたいと考えている人が多いはずなので、少しビジネスよりで紹介していきたい。
選択肢が多すぎると最善なものを選べない
人はしばしば選択しないことを選択する。
これは僕自身も幾度となく経験している。
実際に様々な企業の商品開発やプロモーションなどを支援していて、感じることだけど。商品プランなどのプラン数(選択肢)を多く設定してしまうと、売れなくなる。選択肢が多すぎると人は選べなくなってしまう。
フレーミングと損失回避
フレームは「物ごとの捉え方(認知)の枠組み」のこと。そして、フレーミングは「枠組みを通した見え方」のことをいう。その意味では、人は現実を正しくは見てはいない。
代表的な行動の1つが、「人は損失を回避するように行動してしまう」ということ。たとえば、次のようなことだ。
- 省エネ対策すると、年間350ドル節約できる
- 省エネ対策しないと、年間350ドル損する
実際には同じことであるにもかかわらず、「損する」方が圧倒的に人を説得できてしまう。
人に信用される方法
これは一貫性だ。
首尾一貫した主張をする人は集団や活動に強い影響を与える。乱暴にいえば、自分の思い通りに集団を動かせる。
主張を変えない人(首尾一貫した人)は信用させるけど、主張を変える人は信用されない。
その他のポイント
納税率、年金納付率、投票率について
投票率などの場合、次のような傾向が見られる。
- 参加者が少ないという情報が広まると、参加率が上がる
- 逆に参加者が多いという情報が広まると、参加率が下がる
クライアント企業の1つにサービスを販売している企業があるのだけど、そこでまさに同様のことが起きている。
購入者が多いのであれば、サービスの質が下がると顧客が考えたり、だったらいいや、と考えたりと、その理由は人それぞれだけど、購入率が下がる。
ここはそのビジネスの商品やサービス、また顧客にもよるところなので、一概にはいえないけど、1つ意識すべきことだろう。
基本的なテクニック
・デフォルト
デフォルトは初期設定のことで。
相手(たとえば、顧客)にとってほしい「選択」をあらかじめ設定しておくことで、異なる選択をとる可能性を低くする技術。
自動更新の商品やサービスなどがまさにそうだけど。
たとえば、Amazonのプライム会員の無料期間に顧客が加入したとしよう。無料期間中、いつでも解約できるのだけど、解約には手間がかかる。すると、なんとなく続けてしまう。これはあなたにもあると思う。
相手にとってほしい選択をあらかじめ設定し、そのデフォルトを最も容易に設定する。すると、人はもっとも抵抗の少ない道を進んでしまう。
・フィードバック
相手が特定の行動を起こしたら、すぐに反応を返す仕組みをつくることで、自発的に行動を起こすように誘導していく技術
・インセンティブ
特定の行動をとった時にメリットを相手に与えることで、再びその行動を促す技術のこと。よくあるポイントカードなどはまさにそれ。
・選択肢の構造化
複雑な選択肢をわかりやすくすることで、特定の選択肢に導く技術。
たとえば、メニューなどに「店長オススメ」とか「期間限定メニュー」などと掲載する。これにより、大量のメニュー(選択肢)から、相手に選びやすくしてあげる。
書籍内容
2017年ノーベル経済学賞受賞、リチャード・セイラー教授の代表作!
〝使える経済学〟の先端理論をやさしく解説。
ナッジ(Nudge)とは「ヒジで軽く突っつく」ように、強制やインセンティブ(金銭的動機付け)に頼らず、人々を賢い選択へと導くちょっとした工夫。社会にナッジを組み込めば、より快適に暮らすことができる。
アムステルダムのスキポール空港では、男性用トイレの小便器に黒いハエの絵が描かれている。男性は用を足すときに注意が散漫になり周囲を少しばかり汚してしまいがちだが、目標があると「狙いたくなる」ために精度が大幅に向上する。
このアイデアは〝ナッジ〟が最も効果をあげている例の1つだ……。(「はじめに」より)
賢く選び、より良く生きたいあなたをサポート!そんな新たな経済学の登場。
なぜ貯金がたまらないのか?どんなローンが得なのだろう?賢い投資法とは?
――ダイエット・禁煙から、お金にまつわる種々の問題まで、人生は難しい選択に満ちている。
本書のテーマ「ナッジ」(NUDGE)は、「ヒジで軽く相手をつつくように」、適切な選択を促したり、危険を回避させるしぐさである。この心優しい“ナッジの経済学”の目的は、ごくごく平凡な人々を幸福へ向けて後押しすることにある。
さらには、国民を不幸にしない公的保険制度のあり方、あるべき環境・省エネ政策の輪郭をも提示する。「使える行動経済学」の全米ベストセラー。
著者紹介
リチャード・セイラー(Richard H. Thaler):
シカゴ大学経営大学院教授、同大学意思決定研究センター所長。行動経済学の指導的研究者の一人であり、政策提案でも実績がある。著書に『セイラー教授の行動経済学入門』(ダイヤモンド社)等がある。