ファスト&スロー
2002年にノーベル経済学賞を受賞している、心理学者ダニエル・カーネマンの名著『ファスト&スロー』。
2014年6月20日に発売となったものなのですが、未だにAmazonの書籍などでランキング上位。2018年5月29日現在、総合で570位。心理学カテゴリーではTOP100に入っています。
相当人気ですね。
上巻、赤の下巻の2冊になります。
サブタイトルにはこうあります。
「あなたの意思はどのように決まるのか?」
あなたは自分の意思や判断がどのように決まると思いますか?
人が判断エラーに陥るパターンや理由。そうしたものを行動経済学・認知心理学的実験で徹底解明していきます。行動経済学はもちろん、マーケティングに興味がある人にもオススメしたい本です。
ファスト&スロー
印象に残ったポイント
速い思考と遅い思考
思考には「2つの思考」がある。
- システム1(速い思考)
- システム2(遅い思考)
システム1(速い思考)は直感的思考や感情的思考のこと。
システム2(遅い思考)は論理的思考や理性的思考のこと。
日常的には、この2つのシステム、速い思考と遅い思考でわれわれは意思決定を行っている。
ちなみに、システム1がファスト(速い)、システム2がスロー(遅い)ので、本のタイトルが『ファスト&スロー』となっています。
『「システム1」は自動的に高速で働き、努力はまったく不要化、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない』
「『システム2』は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。システム2の働きは、代理、選択、集中などの主観的経験と関連づけられることが多い」
「システム1とシステム2は、私たちが目覚めているときはつねにオンになっている。システム1は自動的に働き、システム2は、通常は努力を低レベルに抑えた快適モードで作動している。このような状態では、システム2の能力のごく一部しか使われていない。
システム1は印象、直感、意志、感触を絶えず生み出してはシステム2に供給する。システム2がゴーサインをだせば、印象や直感は確信に変わり、衝動は意思的な行動に変わる。
万事とくに問題がない場合、つまりだいたいの場合は、システム1からおくられてきた材料をシステム2は無修正かわずかな修正を加えただけで受け入れる。
そこであなたは、自分の印象はおおむね正しいと信じ、自分がいいと思うとおりに行動する。これでうまくいく ― だいたいは」
神経系は多くのブドウ糖を消費
神経系は多くのブドウ糖を消費。特に相当な努力を要する「知的活動」には多くのブドウ糖が必要になります。
「神経系は、人間の体のどの部分よりも多くのブドウ糖を消費する。
そして非常な努力を要する知的活動は、ブドウ糖というコストで換算すると、とりわけ高くつくと考えられる。難しい認知的推論をしているときや、セルフコントロールを要する仕事に取り組んでいる時には、血液中のブドウ糖が減る(血糖値が下がる)」
「自我消耗の影響はブドウ糖の摂取で解消できると考えられる。……実験では、次のタスクに移る前に、参加者にレモネードを与える。半分にはブドウ糖が入っており、残り半分には人工甘味料のスプレンダが入っている。
レモネードを飲んだ後の第二のタスクは、直感を抑えないと正しく答えられない。通常は、自我消耗した人は非常に直感的エラーを犯しやすくなる。スプレンダ入りレモネードを飲んだ被験者は予想どおりエラーを犯したが、ブドウ糖入りを飲んだ被験者は自我消耗の兆候を示さなかった。脳が使えるブドウ糖のレベルが回復したおかげで、正答率は下がらなかったと考えられる」
休憩直後は許可率が最も高い
疲れていくと却下しがち
あなたが営業するなら、休憩直後の時間帯が狙い時ということです。
「イスラエルで行われた実験で、そうと知らずに被験者になったのは、八人の仮釈放判定人である。彼らは一日中、仮釈放申請書類の審査をしている。……(仮釈放の申請は却下が前提で、認められるのは35%にすぎない)。
……
実験では、決定に要した時間とともに、判定人に与えられる三回の食事休憩、すなわち朝、昼、午後の休憩時間も記録された。
そして休憩後の経過時間と許可件数の比率を算出したところ、各休憩直後の許可率が最も高く、65%の申請が認められた。
その後は次の休憩までのに時間ほどの間に比率は一貫して下がっていき、次の休憩直前にはゼロ近くになった……疲れて空腹になった判定人は、申請を却下するという安易な「初期設定」に回帰しがちだ、ということである」
直感的思考では
間違えることがある
「バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
バットはボールより1ドル高いです。ではボールはいくらでしょう?
きっとあなたの頭の中に数字が閃いたことだろう。
勿論それは、10、つまり10セントだ。
この簡単な問題の特徴は、すぐに答が思い浮かぶこと、そしてその答は、直感的で説得力があり―そしてまちがっていることである。
検算してみれば、すぐにまちがっていると気づく。何故なら、ボールが10セントなら、1ドル高いバットは1ドル10セントになり、合計で1ドル20セントになってしまうからだ。正解は5セントである」
プライミング効果
プライミング効果とは「先行する刺激(プライマー)の処理が後の刺激(ターゲット)の処理を促進または抑制する効果のこと」。
「この実験では、ニューヨーク大学の学生(18から22歳)に五つの単語のセットから四単語の単文を作るよう指示する(たとえば、彼/見つける/それ/黄色/すぐに)。このとき一つのグループには、文章の半分に、高齢者を連想させるような単語(フロリダ、忘れっぽい、はげ、ごましお、しわなど)を混ぜておいた。
この文章作成問題を終えると、学生グループは他の実験に挑むため、廊下の突き当たりにある別の教室に移動する。この短い移動こそが、実験の眼目である。
実験者は学生たちの移動速度をこっそり計測する。するとバルフが予想したとおり、高齢者関連の単語をたくさん扱ったグループは、他のグループより明らかに歩く速度が遅かったのである。
この『フロリダ効果』には、二段階のプライミングが働いている。
第一に、一連の単語は、『高齢』といった言葉が一度も出て来ないにもかかわらず、老人という観念のプライムとなった。第二に、老人という観念が、高齢者から連想される行動や歩く速度のプライムになった。これらは、まったく意識せずに起きたことである」
「この調査はアリゾナ州の複数の選挙区で実施されたもので、学校補助金の増額案に対する賛成票は、投票所が学校の場合、そうでない場合よりも優位に多かったのである。これとは別の実験でも、教室やロッカーの写真を見せられた人は、学校関連のプロジェクトを支持する率が高まることがわかった。しかも写真の効果たるや、生徒の親か一般有権者かの違いよりも大きかった」
頻度の高いものは、よい印象を与える
頻度が高いものは人によい印象を与えます。これはまさに『単純接触効果』。いいかえると、『ザイアンスの法則』です。
関連記事:単純接触効果(ザイアンスの効果)で好感度を高める方法と注意点
「ミシガン大学とミシガン州立大学の学生新聞で行われた実験は、私も大好きな実験の一つだ。数週間にわたり、新聞の一面には広告のような囲みが設けられ、そこにトルコ語(またはトルコ語風)の次のような単語が代わる代わる登場した。
kadirga、saricik、biwonjoni、nansoma、iktitafである。
単語が繰り返される頻度はまちまちで、期間中に一度しか登場しないものもあれば、日を変えて2回、5回、10回、さらには25回も顔を出す単語もあった(片方の大学新聞で頻度が最も高い単語は、別の大学では最も低かった)。これらの単語についての説明は何もなく、読者からの質問に対しては『広告主は匿名を希望している』と回答された。
このふしぎな一連の広告が終わると、実験者は学生に質問表を送り、単語が何か『よいこと』を意味していると思うか、それとも『悪いこと』か、印象を訊ねた。
結果は驚くべきものだった。頻度の最も高かった単語は、一回か二回しか登場しなかった単語に比べ、『よいこと』を意味すると考えた人がはるかに多かったのである。この実験結果は、中国の感じ、人間の顔、ランダムに作成した多角形などを使った他の実験でも検証されている」
システム1はだまされやすく
システム2は信じない。ただし…
システム1はだまされやすい。逆にシステム2は信じない。ただし、疲れている時などはだまされやすくなってしまいます。
「信じないという行為はシステム2の働きだと考え、この点を立証するためにエレガントな実験を行った。
参加者は『ディンカは炎である』といった無意味な文章を読まされ、数秒後に「正しい」と書かれたカードか「まちがい」と書かれたカードを見せられる。その後に、どの文章が「正しい」に分類されたか思い出すテストを受ける。
ただし一部の参加者は、実験中ずっといくつかの数字を覚えているよう指示されている。こうしてシステム2が忙殺されると、まちがった文章を「信じない」ことが難しくなるという偏った影響が表れた。
実験後に行われた記憶テストでは、数字を覚えているせいで疲れ切った参加者は、大量のまちがった文章を正しかったと考えるようになった。このことが示す意味は重大である。システム2が他のことにかかり切りのときは、私たちはほとんど何でも信じてしまう、ということだ。
システム1はだまされやすく、信じたがるバイアスを備えている。疑ってかかり、信じないと判断するのはシステム2の仕事だが、しかしシステム2はときに忙しく、大体は怠けている。実際、疲れているときやうんざりしているときは、人間は根拠のない説得的なメッセージ(たとえばコマーシャル)に影響されやすくなる、というデータもある」
第1印象で印象が決まる「ハロー効果」
ハロー効果。
ハロー効果とは社会心理学の現象で、ある対象を評価をする時に、それが持つ顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる現象のことです。
「さて読者は、アランかベンか、どちらがお好きだろうか。
アラン:頭がいい、勤勉、直情的、批判的、頑固、嫉妬深い
ベン:嫉妬深い、頑固、批判的、直情的、勤勉、頭がいいもしあなたが大多数の人と同じなら、ベンよりアランのほうがずっと好きだろう。最初の方に挙げられた性質は、後のほうで挙げられた性質の意味すら代えてしまう。
頭のいい人が頑固なのは十分な理由があると考えられるし、場合によっては尊敬にも値する。だが妬み深くて頑固なくせに頭がいいのは、一段と危険だと感じられる。しかもハロー効果は両義性を覆い隠す。……『頑固(stubborn)』は『頭がかたい』ともとれるし『意志が強い』とも解釈できる。そうなると、第一印象でできあがった文脈に合わせて解釈されることになる」
「学生の論文試験を採点していたときのことである。
始めのうち私は、ありきたりのやり方をしていた。つまり一人の学生の提出物(二本の論文を綴じてある)を取り上げ、課題1の論文を読んで採点し、続けて課題2を読んで採点し、合計を出し、それから次の学生に移るというやり方である。
だがそのうち私は、自分のつける点数が課題1と2でひどく似通っていることに気づいた。もしかするとこれはハロー効果ではないか、つまり課題1の採点が課題2の評価に影響を与えすぎているのではないか……そこで私は新しいやり方をすることに決めた。
一人の学生の論文を二本続けて読むのではなく、まず課題1だけを全員読み、その後に課題2に移る。最初の論文の点数は表紙の裏に記入し、二本目を読むときに、一本目の点数に(たとえ無意識的にでも)惑わされないようにした。
新しい方法に切り替えてすぐ、私は落ち着かなくなった。……ある学生の二本目の論文に失望して低い点をつけ、いざ表紙の裏に書き込もうとすると、一本目には高い点数をつけていた、ということがちょくちょくあったからである。その上、一本目との差を減らそうとして、これから書き込む二本目の点数を変えたくなる誘惑にも駆られた。絶対にそのようなことをしてはならない、と自分を律するのはかなり大変だった。
この結果、一人の学生の点数が課題1と2で大幅に違うケースが頻出することになる」
討論する前に
意見を提出してもらう
「判断の独立性(ひいてはエラーの相関性の排除)を保つ原則は、会議にさっそく応用できる。……会議に当たって簡単なルールを決めておくと役に立つ。それは、議題について討論する前に、出席者全員に前もって自分の意見を簡単にまとめて提出してもらうことだ。こうしておけば、グループ内の知識や意見の多様性を活かすことができる。通常の自由討論では、最初に発言する人や強く主張する人の意見に重みがかかりすぎ、後から発言する人は追随することになりやすい」
自分の見たものがすべてだ
と考えてしまう
商品やサービスを売る時に「一貫性」は非常に重要になってきますが、それはまさにこのことからです。
「自信過剰――『自分の見たものがすべてだ』という態度からうかがわれる通り、手持ちの情報の量や質は主観的な自信とは無関係である。自信を裏付けるのは、筋の通った説明がつくかどうかであり、ほとんど何も見ていなくても、もっともらしい説明ができれば人々は自信たっぷりになる。
こうしたわけで、判断に必須の情報が欠けていても、それに気づかない例があとを断たない。まさしく『自分の見たものがすべてだ』と考えてしまう。そのうえ私たちの連想マシンは、一貫性のある活性化パターンをよしとし、疑いや両義性を排除しようとする」
「自分の選択について、その根拠を多く挙げさせるときのほうが、少ないときより、選択の正しさに自信が持てなくなる」
語られる以上に
運が役割を果たす
大半のことはランダム。つまり、運が役割を果たしていることが多い。
運の役割が大きいほど、学べることは少なくなります。
「私たちは、人生で遭遇する大半のことはランダムであるという事実を、どうしても認めたくないのである」
「たまたま幸運に恵まれたリーダーは、大きすぎるリスクをとったことに対して罰を受けずに終わる。それどころか、成功を探り当てる嗅覚と先見の明の持ち主だと評価される」
「熟練した筏師は何百回も急流を下ったことがあり、逆巻く流れを読み、妨害物を予見する術を知っているし、ほんのわずかの操作で正しい姿勢を保つこつを会得している。
これに対して若き創業者は、大企業を設立する方法を学ぶ機会も、水面下の岩(たとえばライバル企業のイノベーション)を避ける方法を知る機会も、はるかに少なかった。
勿論、グーグルのストーリーに才能とスキルがあふれていることはまちがいない。だが実際には、語られている以上に運が重要な役割を果たしていたはずである。そして運の役割が大きいほど、学べることは少なくなる」
予算の見込み違い
これはよくあることですよね。
ただ、予算の見込み違いは、必ずしも無知に起因するわけではないということです。
「1997年7月、スコットランドの新しい国会議事堂をエジンバラに建設する計画が議会に提出された。総工費は4000万ポンドと見積もられていた。
1999年6月には、予算は1億900万ポンドに修正された。
2000年4月になると、議会は予算上限を1億9500万ポンドとする法案を可決。
2001年11月には議会が『最終予算見積もり』を出すよう要求し、2億4100万ポンドという見積もりが提出された。
この見積額は2002年中に二度上方修正され、年度末時点で2億9460万ポンドとなった。
しかし2003年に3回にわたって修正され、6月時点で3億7580万ポンドとなる。
そして2004年に、ついに新議事堂は落成した。総工費はおよそ4億3100万ポンドに達していた……
当初予算の見込み違いは、必ずしも無知に起因するわけではない。非現実的な計画を立てる人たちは、多くの場合、その計画を上司または顧客に是非とも承認させたいと考えている。
彼らは、いったん承認された計画は、単に予算不足や納期遅れが起きただけで中止や放棄に至ることは滅多にない、と知っているのだ。
このようなケースでは、計画の錯誤を回避する責任は、計画の可否を決める意思決定者にかかってくる。彼らが外部情報の必要性を否定するようだと、計画の錯誤は避けられまい」
自信過剰なCEO
自信過剰なCEOが発生させる損害は
、有名人扱いされたりするほど大きくなってしまう。
「自信過剰のCEOが発生させる損害は、業界誌で有名人扱いされているCEOの場合ほど大きい。
だから、権威ある賞をCEOに進呈するのは、株主の利益を損なう行為と言えよう。マルメンディアらは『CEOが賞をもらうと、その後その会社は、株価の面でも業績の面でも振るわなくなることがわかった。その一方でCEO本人の報酬は上がるため、CEOは会社以外のことに以前より多くの時間を費やすようになる。たとえば本を書く、他社の社外取締役になる、などだ。また自分の資金運用や資産管理に注ぎ込む時間も増える』と指摘する」
死亡前死因分析
死亡前死因分析をすると、懐疑的な見方に正当性を与えます。これはかなり有効だと考えます。
死亡前死因分析とは…
「何か重要な決定に立ち至ったとき、まだそれを正式に発表しないうちに、その決定をよく知っている人たちに集まってもらう。そして、『いまが一年後だと想像してください。私たちは、さきほど決めた計画を実行しました。すると大失敗に終わりました。どんなふうに失敗したのか、5 ~ 10分でその経過を簡単にまとめてください』と頼む」
「チームがある決定に収束するにつれ、その方向性に対する疑念は次第に表明しにくくなり、しまいにはチームやリーダーに対する忠誠心の欠如とみなされるようになる。とりわけリーダーが、無思慮に自分の意向を明らかにした場合がそうだ。
こうして懐疑的な見方が排除されると、集団内に自信過剰が生まれ、その決定の支持者だけが声高に意見を言うようになる。
死亡前死因分析のよいところは、懐疑的な見方に正当性を与えることだ。さらに、その決定の支持者にも、それまで見落としていた要因がありうると考えさせる効果がある。
死亡前死因分析は万能薬ではないし、予想外の不快な事態を完全に防げるわけでもない。だが少なくとも、『見たものがすべて』という思い込みと無批判の楽観主義というバイアスのかかった計画から、いくらかは損害を減らす役に立つことだろう」
強い感情反応
行動して生まれた結果に対して強い感情反応が生まれる(行動せずに同じ結果になった時よりも)。
「行動して生み出された結果に対しては、行動せずに同じ結果になった場合よりも、強い感情反応が生まれるということである。この感情反応の中には後悔も含まれる。
このことは、ギャンブルの場合にも確かめられている。人々は、ギャンブルをして勝ったときのほうが、ギャンブルをせずに同額のお金を獲得したときよりうれしいのである。この非対称性は、損をする場合にも少なくとも同程度には現れるし、後悔と非難にも当てはまる。
じつはここで重要なのは、行動するかしないかのちがいではない。
デフォルト(既定)の選択肢と、デフォルトから剥離した行動とのちがいである。デフォルトから離れると、デフォルトが容易にイメージされる。
そこでデフォルトから離れた行動をとって悪い結果が出た場合には、ひどく苦痛を味わうことになる。たとえば株を持っているときのデフォルト選択は売らないことであり、朝同僚に出会ったときのデフォルト選択は挨拶することである。株を売ったり、朝同僚を無視したりするのは、どちらもデフォルトからの剥離であり、後悔や非難の対象になりうる」
損失という言葉には
強い嫌悪感がある
人が損失を強く嫌う、受け入れられないということです。
「エイモスと私は、問題の提示の仕方が考えや選好に不合理な影響をおよぼす現象にフレーミング効果と名付けた。たとえば、次の例を考えてみてほしい。
10%の確率で95ドルもらえるが、90%の確率で5ドル失うギャンブルをやる気がありますか?
10%の確率で100ドルもらえるが、90%の確率で何ももらえないくじの券を5ドルで買う気はありますか?まずはじっくり考えて、二つの問題がまったく同じであることをよく納得してほしい。
どちらの場合も、いい目が出れば95ドル得をし、悪い目が出れば5ドル損をすることになる。したがってあくまで客観的事実に依拠するエコンならば、どちらにもイエスと答えるか、どちらにもノーと答えるだろう。
だがそういう人はめったにいない。実際には、2番目にだけイエスと答える人が圧倒的に多い。これは、外れたくじ券に払ったのは費用だと考えるため、ギャンブルの負けよりはるかに受け入れやすいからである。これはとりたてて驚くには当たるまい。損失という言葉は、費用という言葉より、ずっと強い嫌悪感をかき立てる。こうしたわけで、客観的事実に基づかない選択が行われる。これは、背後にいるシステム1が事実にあまりこだわらないからである」
ファスト&スロー
書籍内容
整理整頓好きの青年が図書館司書である確率は高い? 30ドルを確実にもらうか、80%の確率で45ドルの方がよいか? はたしてあなたは合理的に正しい判断を行なっているか、本書の設問はそれを意識するきっかけとなる。人が判断エラーに陥るパターンや理由を、行動経済学・認知心理学的実験で徹底解明。心理学者にしてノーベル経済学賞受賞の著者が、幸福の感じ方から投資家・起業家の心理までわかりやすく伝える。
ファスト&スロー
著者説明:ダニエル・カーネマン
ダニエル・カーネマン
認知心理学者。プリンストン大学名誉教授。専門は意思決定論および行動経済学。1934年テルアビブ生まれ。幼少期をパリで過ごし、その後家族とともにパレスチナに移住。エルサレムのヘブライ大学で心理学と数学を学んだ後、イスラエル国防軍心理学部門に勤務。1958年にアメリカに渡り、カリフォルニア大学バークレー校で心理学の博士号を取得。ヘブライ大学などを経て、1993年よりプリンストン大学教授。2002年に、不確実な状況下における意思決定モデル「プロスペクト理論」などを経済学に統合した業績が評価され、心理学者にしてノーベル経済学賞を受賞